なろう原作マンガの感想など

歴史漫画のまとめを作るはずだったのに、いつのまにかなろう原作マンガの感想ばっかりになってしまった

ジャンヌ・ダルクについて② 「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」ジャンヌ・ダルク私生児説をベースにしたお話

「ジョルジュ・ラ・トレモイユ」視点の腹心「ルイ・クルパン」という人物の視点からジャンヌを語る作品。ちょっとマニアックw

ジョルジュ・ラ・トレモイユについて

ジョルジュは反リッシュモン大元帥であり、リッシュモン大元帥はどちらかと言うとジャンヌ寄り扱いをされることから、結果として反ジャンヌと見られがちな人物。

ジャンヌ登場後、フランスが優勢になった後でも英国との休戦をシャルル7世に持ちかけたり、ジャンヌが捕虜になったときも身代金を払わず見捨てるようにそそのかした、みたいな感じで、ジャンヌ・ダルク好きな日本人から見ればマイナスイメージが強いかと思います。実際この本もそういう雰囲気で取り上げられてますね。

宰相として、無気力なシャルル7世から国政に関する一切を任された人物。悪く受け取るなら、三国志時代の蜀において、劉禅をたぶらかした悪宦官として知られる「黄皓」みたいな感じでしょうか。

ジャンヌの後ろで誰かが糸を引いていたのではないか、という疑惑について

そんなジョルジュは、自分の権力基盤が王の信頼に依存していることをよく理解しているため、警戒心が強いです。町娘とはいえ、いきなり現れてはシャルル7世の寵を受けたジャンヌ・ダルクにかなり猜疑心を持つ。ジャンヌ本人はともかく、「ジャンヌの後ろに黒幕が隠れているのではないか」ということを考えるわけですね

彼が真っ先に疑ったのは、神の啓示とかそういう話ではなく(それは誰かの仕込みだろうと考えていた)「ジャンヌ・ダルクが馬に乗れること」。宮廷で堂々と振る舞える、ということ。この当時貴族の男でもない人間が馬を乗りこなせる、ということ自体が不可解だと考えた。

むしろ受けたのは教育だ、とジョルジュは思う貴族としての教育だ。それも多分に男としての教育だ。やはり神ではなく、今日の日のために、あらゆる準備を密かに進めた黒幕がいるのだ。

これに関しては、創作ではあるものの流血女神伝において、実際にジョルジュが危惧したそのまんまのストーリーを読んだことがあるのでかなりリアリティを持って想像することが出来ました。

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そんなわけで、黒幕としてリッシュモンの他、オルレアン公、アランソン公、ブルボン公などを疑って、念のため身辺調査をさせることになります。



ジャンヌ・ダルクの故郷 ドンレミ村(シャンパーニュ地方の東端)でジャンヌの「人物について」の聞き込み調査を行う

英仏戦争の結果、周囲はすべてイギリスに支配され、飛び地として孤立している地域。領主の居城「ヴォークルール城」もイギリスに包囲され、ドンレミ村も何度となく襲撃され略奪にあったらしい。

で、パリがとっくにイギリスに恭順しているのに、この地域は孤立した状況にあっても、フランスへの忠誠心が高い土地柄であったと。で、土地の人もなぜかジャンヌのことを聖女と信じているようであった、と。

その後、史実としても知られている「ボードクリール」に一度門前払いになった後、徐々に話題となり、「ロレーヌ公」と会った後に、ボードクリール公がわざわざ兵士に護衛させて王のもとに送り出したこと、ポワティエ審問のことなんかについて語られる。

ヴォークルールからシノンにいる王の元に向かうまで何があったのか

ルイはまずヴォークルール城から王のもとまでジャンヌを送り届けた城兵たちに聞き込みを行う。

神の遣いだなんて名乗るだけあって、この世にはきれいなものしかないなんて本気で信じてる顔だった。汚いものもあるんだって、いや、この世は汚いものだらけなんだって、どうでも俺は教えてやりたくなったのさ。

この当時の男尊女卑は今の比ではなく、女一人が6人の城兵の男と一緒に旅をするという過程はあまりにも常軌を逸していた。これについて、身辺調査を行っているルイは当然邪推をするわけだが……。


ドムレミ村でのジャンヌの評判は……

「できすぎて、なんだか嫌味な子だったわ」
「あの子は、生まれたときから特別だったから」

ジャンヌが村で聖女として振る舞い始めたのは、たった1年前の1428年5月からだったらしい。それにも関わらず、村人たちは唖然とするばかりの急展開にも、妙に納得していた。


ジャンヌダルクの生家を訪れる

ジャンヌの家は、村の中では村長一家であり、地元の名士であり、豪農。
父はジャック・ダルク。母はイザベル・ロメ。地元ではジャンヌではなくジャネットと呼ばれていたらしい。
兄は三人、妹が一人いて、それぞれ「ジャックマン」「ピエール」「ジャン」「カトリーヌ」。ピエールとジャンは、ジャンヌの出立に合わせてオルレアンに出立していた。

ジャンヌは、婚約者アンリ・ポクランのところに嫁がず、親の顔を潰したため、父から勘当されている。(トゥール司教法定に訴えられた記録も残っていた)

→アンリは、「ジャンヌは、村の中に、婚約者のアンリ以外に想い人がいて、夜に幾度となく密会していた」と言うが……


ルイの報告を得て、ジョルジュが出した結論は……

ラ・ピュセルはジャック・ダルクとイザベル・ロメの実子ではない。(○○○の私生児である)

お、これはジャンヌファンなら有名な説の一つですね。この作品では、タイミングから推測して「オルレアン公ルイと淫乱王妃イザボーの間に生まれた私生児である」という推測を立てています。

閑話休題ですが、この当時フランスはただでさえイギリスに負けているのに、内紛を起こしており、特にアルマニャック派のgdgdぶりはほんとにひどい。このせいでイングランド・フランス二重王国状態が発生してるわけです。

アルマニャック派 - Wikipedia

宮廷を掌握したアルマニャック派だったが、1415年にフランス遠征を開始したイングランド王ヘンリー5世を撃破しようとしてアジャンクールの戦いで大敗、アランソン公は戦死、オルレアン公とブルボン公は捕虜となり、ブルターニュ公も弟アルテュール・ド・リッシュモンが捕らえられイングランドに反抗出来なくなり、アルマニャック派は大打撃を受けた。同年と翌1416年に王太子とベリー公も死去、1417年から行われたヘンリー5世のフランス征服にもアルマニャック派はなす術が無かった。1418年にブルゴーニュ派が扇動したパリ市民の再度の暴動でアルマニャック伯は殺され、パリは再びブルゴーニュ派が制圧した

ここからのどんでん返しが面白い。

ここで終わってしまっては、よくある俗説をなぞっただけのチープな展開で終わってしまいます。しかし、ジャンヌはジョルジュのこの推測を突っぱねます。この俗説はこの物語ではジャンヌ本人によって否定されてしまうわけですね。

私の推測が外れたということか。オルレアン公家ではなかったのか。してみると、ジャンヌ・ダルク、またはロメは全体なにものなのだ。

なまじ私生児説は読んだことがあり、てっきりその展開かと思っていたのでかなりびっくりしました。

しかし、ジャンヌはジャック・ダルクの子ではなく誰かの私生児であり、貴族の援助を受けていたことは状況から疑いようもない。しかし一体ジャンヌは誰の子であり、黒幕は誰なのか……とジョルジュが迷うものの、意外なところからあっさり答えが判明します。黒幕の正体はまさかのあの人物。同著者の作品の「傭兵ピエール」「カルチェ・ラタン」にも登場していたかの人物です。佐藤賢一さんはこの一族ほんとに好きだな!!!


黒幕の正体はわかったが、ジャンヌ・ダルクの正体は未だわからず

さて、ジャンヌの「黒幕」の正体がわかったジョルジュは、その「黒幕」のちからを削ぐために戦場においてジャンヌを孤立化・弱体化させる手を打つ。そして、ついにジャンヌはコンピエーニュの戦いでとらわれることになります。これで「黒幕」はもう力を失ってしまいます。


さて、ジョルジュに残された課題はあと一つ。「身代金を払ってジャンヌを救うべきかどうか。それとも見殺しにするか」。

見殺しにすればいいと思いつつもジョルジュは悩みます。なぜなら、「黒幕」の正体はわかってもジャンヌの正体がまだわからないから。ジャンヌの正体は、王であるシャルル7世は知っている、しかし自分はわからない。もしジャンヌの正体が王にとって絶対に見捨てられないほど重要であり、それにも関わらず見捨てるという選択をすれば、ラ・トレモイユは一発で王の信頼を失ってしまう。慎重にならざるを得ないわけですね。



そして、ついにジョルジュは、ジャンヌの正体を悟ります。そして、なぜ彼女が他の人に聖性を感じさせるオーラを持っていたのかも。それを知ったジョルジュは「ジャンヌは絶対に救うべし」と王に進言します。それだけジャンヌの正体は、王にとって重要な人物だったから



さて、それを受けた王の返答は……。




最後の終わり方は「えええええええええ!?」ってなりました。 消化不良感半端ない……。



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やっぱりこの人は長編が面白いかも。。。