「乙女戦争」 ヨーロッパで初めて銃が本格的に使われた戦争
歴史漫画としてもかなり挑戦的な印象を持ちますね。「軍靴のヴァルツァー」と同じく、戦争におけるパラダイム・シフトをテーマとしている作品で、とても興味深く読んでいます
フス戦争はヨーロッパ史最初の火器を使った戦いと言われる。1420年代初頭にヤン・ジシュカの生み出した、手銃を装甲馬車(Tabor)とともに活用する戦術によって、当時の騎士による突撃戦術を完膚なきまでに打ち破った。ヨーロッパ諸国を敵に回したフス派は貴族や庶民が団結し、当時の国王の私兵である軍隊ではなく、国民軍の原型のような軍隊を作り上げた。
フス派は歴史的には闇に葬られた存在。これをどう描くか。
「ヤン・フス」は1415年に死ぬ。英雄「ヤン・ジシュカ」も1423年に病気で死ぬ。そしてフス派は1439年に滅亡する。これは確定している
1439年、ポーランドでは既に王が代替わりしてヴワディスワフ3世となっていたが、フス派の略奪行為に手を焼いていたポーランド王国政府はついに本格的な一斉取り締まりに乗り出し、グロトニキ(Grotniki)の戦い(英語版)でポーランドにおけるフス派を壊滅させた。これによってフス戦争はすべて終わった。
つまり、最終的に十字軍と戦って民衆が勝利する物語として描くことは出来ない。ならばどうするか。
ジシュカの軍に参加した人の乙女の視点でフス戦争を語る
この作品の主人公は「シャールカ」という女性。この女性が生き延びるために銃を持って戦う、という展開になる。日本の戦国時代において、女性が武器を持って戦う描写はないが、このあたりがなかなか新鮮だ。これによって、シャールカ次第で話を途中で終わらせることもできるし、フス戦争後まで描くことができるかもしれない。どうなるだろうか。
また、日本でも本願寺など宗教勢力は強かったが、それでも宗教はトップではなかった。ヨーロッパでは利害以上にこの宗教的な建前が大きい。幕末の尊皇に近い概念がいろんな判断を歪める。このあたりの駆け引きがとても面白そうだ。
マクロ的な事情はおさえておいたほうが良い
重要なのは2点。
1 「コンスタンツ公会議」後であり、教会が権力を確立させようと躍起になっていた事。
このために異端派に対する弾圧が過激になっていた2 ポーランド王国が各国から槍玉に挙げられていたこと
です。
①宗教弾圧
基本的に、長い間に異端とされた宗派は色々あるけれど、どれも「聖書主義者」とか言われてる。
詳しいことはよくわからんです。
1182年 ワルドーの追放
1401年 反ウィクリフ法(ウィクリフ自身は1384年に病死)
1414~1418年 コンスタンツ公会議
1409年 ピサ教会会議でアレクサンデル5世が新教皇→ヨハネス23世→廃位
ローマ教皇グレゴリウス12世は退位
アヴィニョン教皇ベネディクトゥス13世は1417年廃位。最終的に「マルティヌス5世」が唯一の教皇として選出され、シスマが終結
1415年 フスが火刑に処される
1419年 フス戦争が始まる。
1420年 フス派殲滅のための十字軍を発動。
1439年 フス派弾圧終了
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1498年 サヴォナローラが火刑に処される
1517年 マルティン・ルターの95ヶ条の論題
1522年 ドイツ騎士戦争 → 1526年ドイツ農民戦争へ
1526年 シュパイアー帝国議会 →1529年 第二回シュパイアー帝国議会
1546年 シュマルカルデン戦争→1555年 アウクスブルクの和議
1618年 三十年戦争
ファルケンベルクのヨハン「ポーランドは未信者と同盟してキリスト教徒の騎士に反抗したのであるから、絶滅されるべきである。未信者を守護したポーランドは死に値し、未信者よりもさらに優先して絶滅されるべきである。ポーランド人から主権を剥奪し、ポーランド人を奴隷にすべきである」
パヴェウ・ヴウォトコヴィツ「アホかこいつ氏ね」
マルティヌス5世「ヨハンは破門な」
コンスタンツ公会議を開催し、シスマを集結させたローマ皇帝「ジギスムント」はかなりのやり手
ジギスムントは神聖ローマ皇帝であるだけでなく、ハンガリー王国の国王でもあった。
銃(ピーシュチャラ)は女性のための武器だった?
この頃の銃はまだ主力の飛び道具である弓や弩には劣る貧弱な武器だった。
実際フス派軍も、銃よりも遥かに多くの弩を装備していた。
銃は腕力が必要なく操作が簡単であるという利点があり、
こうした特徴から、本作ではピーシュチャラを女性専用の武器として描写しています。
フス戦争がメインというより、この「銃」を使った戦い、というのが
後の世から見た、この戦争の大きな意味ということなんでしょうね。