戸田誠ニ 唄う骨 収録「アオカミ」
古い作品だけどこれ見て思い出したので紹介。
この作品の殺人者はギリギリまで理性を優先しようとする。吉良吉影とちがい、実際に性行為も挑戦してそれによって満足を得れるかも試すし、創作に打ち込んでなんとか欲望を発散できないかと工夫はする。いろんな方法に逃げ場を求めるがそれでもダメで、だから最初の殺人とともに自分も死のうとする。
吉良吉影とちがって小人物であるからこそ、よけいにその苦悩が際立つ描写となっている。
ちなみにこの作品はグリム童話をベースにしてそれを作者が改変した短編集です。
ラストのシンデレラをモチーフにした短編以外はすべて救いがない内容です。どの作品も、世間一般でよしとされる価値観からはみ出した価値観や行動を取ってしまう。
人を殺さずにはいられない領主の息子、どうしても継子を愛せない母親、愛する妹と自分の夢のなかで自分の夢を取ってしまった女性、幼馴染みが好きすぎてその幼馴染みにどうしても認められなかった女性、愛する母のために自分を抑えて真面目に生きてきたけれどシンデレラに全てを持っていかれる長女など。
みんなに共通してるのは自分のおかれた状況の中で、自分が決めた幸せをつかもうと足掻いているところ。本人たちだってできるなら違う道を選びたかった。それでもどうしてもそれができない。
そういう苦しみを描いてる作品で、当時この作品読んだときはたかが短編集なのにそのままならなさが辛くてガチで泣いてしまった。さすがに今はそういうことはないけれど、それでも未だにこの作品は手元に置いてるくらいに好きだし戸田誠ニさんの作品はほぼ全て揃えてるくらいに好きです。
地味で短編が多いので読み手を選ぶのはわかってるんだけれど、わたしは本当に好きなので、もっと多くの人に読んで欲しいなあと思ってる作家さんです。