なろう原作マンガの感想など

歴史漫画のまとめを作るはずだったのに、いつのまにかなろう原作マンガの感想ばっかりになってしまった

「辺獄のシュベスタ」 ブラック企業において良心を保つ事の地獄のような苦しさ

罪滅ぼしじゃない。
慣れないためよ。

黙っていたら、心なんて
崖の上でも泥の中でも
赤ん坊みたいに眠ってしまうもの。
だからこうして焼けた鉄をかませてやる。
そうそう眠れやしないように。


この作品で描かれているのは究極のブラック企業の話。

ブラック企業」という言葉が意味するのは人間から自分の意思を完全にはく奪し、意のままに操ろうとする圧力のことだ。

 

「清貧」
「貞潔」
「従順」

という3つのキーワードで人間の自由や尊厳や依存をすべて奪い去る。

逆らうものや落ちこぼれには

「死」

を与える。これによって恐怖を植え付ける。

そして、足を引っ張る人間に憎悪を抱くようにさせる。

また、定期的に見せしめの処刑を行うことで

「共犯」

関係に持ち込む。

もうこの時点で良心を保つことはほとんど困難だ。

「人が死ななくてよかった。
 そんな普通の感情がまだ湧くことに
 今は心底、ほっとしてる
 私たちは分水嶺の上にいる」


さらに

「過重な労働」

を課して考える余裕を奪い、

仕上げに

「麻薬」

の快楽によって依存させる。

天国から抜け出すのは、
地獄から逃げ出すよりも難しいものよ


しかも、ここまでやって200人中最後に生き残った5人だけは

上に取り立てられるという

「選別」

の仕組みが残っている。



この狂った環境に積極的に

「過剰適応」

した人間が、後からやってくる人間を自主的に管理するようになる。

その人間は当然人間として扱われないのが当たり前だったから

後から入ってきた人間を人間扱いすることはない。

このサイクルが完成すれば、ブラック企業の完成である。




(ところで、この作品における「ブラック企業空間」が成り立つのはあくまで舞台となる場所が、司法の場が及ばない刑務所のような場所だからである。ところが、今の日本は、司法国家のはずのわりにブラック企業が公に大手を振って存在しておりますね的な話をしてもいいけど今回の主題と違うので割愛)


そういう場所で、「良心」どころか「自分の意思」「目的」を持ち続けることができる人間がはたしているだろうか。

 

<抵抗することのデメリット>
・抵抗が発覚した時点で、即殺される。常に最高級のリスクがある。

・周りにいる人間はみんな自分が生き残るために密告しようとするから誰も信用できない。周りにおびえながら孤独やストレスに耐えなければいけない。

・麻薬の快楽を拒否するためには、毎日相当な苦痛に絶えなければならない

・そこまで苦労しても、自分の意志でできることは限られている。ただ自分の意思を捨てずにいられるだけ

 

<服従することのメリット>
・服従する限りは周囲はとても優しいし、麻薬の快楽も与えられる。

・自分は優秀なので、自分の意思さえ捨てれば快適に過ごせることがわかっている。

 

<抵抗することのメリット>
自分の意思を捨てることなく、自分のままでい続けられる。

 

<服従することのデメリット>
自分の意思を持つことができなくなる。人の操り人形になる。



よほどの自分の中に強い動機がなければ、ブラック企業では人は死ぬか、服従するしかなくないよね。


ブラック企業を変えるなんて無理です。逃げて、外側からつぶすしかない。内側にいて反抗しようとするものはいずれ力尽きて絶望の中で死ぬ。逃げるのが賢明。


でも、それは今だから言えること。この作品では主人公に逃げるという選択肢はない。



だから勝ち目のない闘いだけれど抵抗し続けて自分の意思を保ち続けるか、さっさとあきらめて心を売り渡すかの二択だけだ。


その中で、どこまで主人公がどうやって生きるか、ということを描いている。

祈るものは目を閉じる
しかしその時考えるものは目を開いているのだ

 

こういう物語であるから当然主人公は苛烈な魂の持ち主だし、とても真似できるようなものではない。それでも、見ていて心が震える。


「悪質な環境においては、人間として普通のことを守ることですらそれ自体が闘いなんだ」ということだ。もし、私が「普通のこと」を「普通」だと特に苦労なく言えるのだとすれば、それはとても恵まれている事だと思う。


(ネットはこのコストを甘く見過ぎてるから、言葉だけは綺麗な人が多くてなんだかなーって思うときはあるのだけれど、でも、当たり前のことを当たり前だといえる場所は必要だよね。まぁ、リアルで苦しんでる人にネットの気楽さのまま語るキッズは本気で殴りたくなるときもあるけども)