なろう原作マンガの感想など

歴史漫画のまとめを作るはずだったのに、いつのまにかなろう原作マンガの感想ばっかりになってしまった

岩崎夏海「小説の読み方の教科書」を越える逸材が出たのか・・・

http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20140224#p1
fujiponさんがこういう感想書くって相当なことだと思うんですよね…。


だって、fujiponさんといえば、ハックルさんの「小説の読み方の教科書」でさえ
http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20111114

つまらないかというと、そうでもありません。僕はけっこう面白かったです。 

「原則」というか「方程式」みたいなものをみんなに教えてあげたい、という著者の熱意は理解できなくもないのです。こういうのはひとつの「叩き台」でしかないのだし、みんながそれぞれ「参考」にして、必要だと思うところだけ、役立てればいいだけの話です。

そして、この本には、そういう「役立つところ」も、含まれているのだと思います。とにかく、「この人は本が好きで、本の力を信じているのだなあ」というのは、伝わってきます

って感じで、書き手が何を伝えたかったのかを読みとって、できる限り評価できるところを見つけてこようとするような人なんですよ。少なくともそう思われようと努力しようとする人だと思ってます。 はてなブログの記事やtwitterの発言ではモニョるところが多々あるので、人間として好きかと言われると微妙なんですが、本読みの人としてはほんとに尊敬してる方です。

そのfujiponさんが匙投げるって。これはすごい。私も読もうと思いますが、この本の著者にオカネはらうの嫌です。ブックオフAmazonマケプレはよ。 <おまけ 私の「小説の読み方の教科書」の感想>

はっきり言って非常に面白かった。というか岩崎さんがすごい萌えキャラに見えてきた。
ラノベヒロインとしてみればA級クラスの完成度ですよ岩崎さん。

全体を一言でまとめると「読書術の本だと思った?残念、ハックルちゃんでした!」という感じ

タイトル通り読書術を期待して読むとかなり肩透かしを食らう。

が、むしろ小利口な読書本を期待するはてな民は最初からおるまい。この本は、どちらかと言うと「岩崎夏海版 小説を書くことについて語るときに僕の語ること」と名付けたほうが良い。小説とは何か、小説はなんのために読むのか、小説の面白さとは何か、という彼流の思索を綴ったものである。岩崎さんがどのようなことを考えて小説を書いているかがわかるので「もしドラ」について語りたい人は必読であると思われる。



「まえがき」だけで本の半分を消費するというイノベーション

 
この本はしょっぱなからイノベーション精神に充ち溢れている。
なんといっても、この本は100ページ読んでも小説の読み方についての話が始まらない「小説の読み方」の本なのだ。まえがきが本編なのかと思わされるページ配分だ。 「いいから早く小説の読み方の話をしろ」などと野暮なことを言い出す人はそもそもこの本を読む必要はない、という彼の強気な姿勢が伺える。


ではそのまえがきで何を書いてるかというと、上で書いたとおり。岩崎さん自身の読書遍歴とか、小説の歴史と称して実際は「ドン・キホーテ」や「ハックルベリーの冒険」がいかに素晴らしいかという話を彼自身の語りで延々と説明するのだけれど、論理性を欠いているせいか、はたまたまた繰り返しの多い冗長な構成のせいか、情熱が空回って言いたいことは全くこちらに伝わらない。そういうところが実にハックルさんという感じだ。



どちらかというと、彼が推理小説および推理小説的な読み方に偏った日本の読者批判をするところの方が面白い。ところどころに、もしドラに対するAmazonレビューのアンチ発言や、やねうらおさんによるもしドラの「誤読」に対しての反論というか嫌味が入っていてニヤニヤが止まらない。 そう、これこそがはてなの(一部の)読者が求めていたものだ。「もしドラの作者岩崎夏海」ではなくて「ハックルさん」の語りは、もしドラにおいてではなく、この本で楽しむことができる。


読書術のところは良い意味で「ありきたり」

その後ようやく小説の読み方の話になるが、こちらは「ありきたり」である。「ありきたり」というのは決して悪い意味ではなく、基本をしっかり押さえているという意味で使っている。私は基本を大事にする人が好きで、この部分の内容は素直に良いと思う。岩崎さんがしっかりした読書教育を受けた受けた人であることが分かる。 (ただ、正直言ってこの部分だけが目的なら「未来形の読書術」「打たれ強くなるための読書術」という本を読むことをおすすめしたいかも…)



内容の概要だけ紹介。

まず「どうやって読むか」は目的によって変わるという。そして、その目的、つまり「なぜ小説を読むのか」について岩崎さんがどう考えているかだが、彼ははっきりと成長のため=「自分の人生を豊かにするため」「器を広げるため」と言い切っている。 つまり、もともとラノベ的な消費のされ方をする作品群は彼の考える小説に含まれていないように思われる。じゃあもしドラには使えないんじゃ・・・


一応「成長するための読書」を目的としたときに意識するべきことは以下のとおり。

・「正しい読み方」はドン・キホーテとか百年の孤独ハックルベリーの冒険など、読者を鍛えてくれる本を読めばを読めば自然と身につく。

・できる限り長い作品に挑戦して小説の世界に浸ることで現実の道徳などの柵を取り外す。

・結末や筋書きを意識したり、物事の善悪、登場人物の正否などを勝手に判断せず、素直に作品で描かれていることを体験する。

・二度読み、三度読みによって、物語をいろんな視点から眺め、登場人物や世界にに奥行き立体性をもたせたり、行間に気づくようになる。

・作品が発する問いに自ら向き合うことで自分を成長させる

そのあとに実践編が続く。

ただ、この部分は「ハックルベリーの冒険」を読んだことがある人なら、まぁ普通にそう読むよな、ということが書いてあるだけなので興味があるなら、程度でよい。どちらかというと、説明の内容よりも、説明をしているときの表現の端々に感じる「読者を子供扱いする彼の意識」の方が読んでて面白い。

ここで彼が言いたいのは、あくまでハックルベリーの冒険という小説がいかにすごいか、ということだ。私もこの小説は、いろんなことを考えさせられる素晴らしい作品だと思うので私からもぜひお勧めしたい。大人こそ読むべき。「続あしながおじさん」とあわせて読むとなお良いと思います。


余談ですが、こういうことを言ってる人はあたまがわるいと思います。

TM25○1 小中学校の時に何百回とハックルベリー・フィンを薦められ、一度だけアリバイ作り程度に手を付けたが…あの時ほど読書が苦痛に思えたことがなかった。以後、一生ハックルだけは読まないと決めて生きてきた。余談だが、「ハックルベリーに会いに行く」というさる有名なブログタイトルを見た時、ブログについて何も知らなかったが、タイトルだけで「イカレタ野郎だ」と思った。(しかも、本当にイカレタ野郎だったのですけどね…)

岩崎さんの見所である鼻息のあらs「よくわからないけど強い使命感がある」点は今回も発揮されている

立ち読みするなら150p以降がオススメ。


彼がこの本で最も主張したかったことはこの部分で、「今の小説家と読者との関係を問い直す」ことであると思われる。

彼はよりよい小説を世に送り出し、世の中を変えるため、「俺が今の小説界を世直ししてやる」くらいの意気込みを語ってるんですよ。


「読者は小説の読み方も知らずに偉そうなことを言うな」と言って、読み方を教えると共に、ある程度の責任を課す。行間読めとかいろいろね。一方で小説家に対しても「論理的な整合性とか読者の顔色気にしたりして一番大事な面白さを追求できていない」と言って批判する。そうすることによって「小説の面白さって何だった?お前らもう一度考えなおしてみようぜ!」と熱血教師のノリで問いかけるわけです。

この部分が最高に面白い。「お前が言うな」って野暮なツッコミは無用だ。昂ったっていいじゃないか、ハックルだもの。

というか私は個々の部分を読んで、2年前に竜騎士07という人が、「うみねこのなく頃に」という作品でミステリーにケンカ売ってた時のドタバタを思い出した。あの時のスッタモンダがまた見られるのかと思うとワクワクせざるを得ない。

個人的な意見をいうなら、私はめちゃくちゃ好意を持っている。応援したいとすら思う。岩崎さんの人気の秘密は、この熱さを持続し続けることが出来る部分にあるのだろう。こんな人ばっかりだと困るけど、他の作家さんも意気込みとしては時々このくらい熱い思いでやってほしい。


とはいえ、彼の主張の正しさを示すには、彼がその主張を裏付けるだけの作品を世に出すことが求められる。そうでなければせいぜいラストイニング鶴ヶ島という人物のように「ブレないところがチャームポイントの頑固キャラ」止まりになってしまう。 ただの萌えキャラとしてならこれはこれでアリなのだけれど作家としてそれいいのかハックル!?


ファンには吉報 どうやら岩崎さんは次回作を予定して意欲を燃やしているぞ!

コレについては本を読んで確かめてみて欲しい。自分をマーク・トウェインに重ねて、次回作を「ハックルベリーの冒険」なみの傑作になると確信している彼の語りの部分は生で読まないともったいない。彼の使命感や自負心が、どういう形で次の作品に反映されるのか、今から楽しみでしょうがないです。