ときめきトゥナイト
初出が1982年。私が生まれるより先の作品。いまさらだけど紹介されたので読んでみたらめっちゃ面白かった。
ちなみに去年の8月にスピンオフ作品が出たらしいです。ビックリ!
「いいか、ケンシロウ。お前ごときではオレに勝つことはできん。オレとお前では致命的な違いがある。 それは欲望・・・執念だ!」 ケンシロウ「ウッ、グググ・・・」 シン「欲望こそが強さに繋がる。だが、お前にはそれがない!」
この作品すごい。ギャグ漫画っぽいテイストで始まったと思ったら、女の子の欲望てんこもりだ。そして、その欲望を作品で実現スルための「恋愛のための中二病」要素がこれまたぎゅうぎゅうに詰まってる。
恋愛を「異性との関係から得られる感情を味わう」ものだとするならば、まさにフルコース料理が出てきたようなもの。相手役の真壁俊という「素材」をこれでもかというほど料理して恋愛というものを骨の先までむしゃぶりつくす感じがすごい。「女の子」の貪欲さと執念を思い知らされます。読んでるだけでも満腹になりました。 ====
基本構造は他の作品と同じ
①スタート地点はどこにでもある一人の男と女の子の恋
ここから始まって、ここに終わる。
ここから恋愛をドラマティックにするためにいろんな設定が盛り込まれていって
最後にはその設定をすべて捨てて、「あなたがあなただから好きなのです」という
少女漫画ならではの結論に到達する。
「捨てるために積み重ねていく」わけだけれど、その積み重ねが半端ない。
中盤までは割りと普通(ちょっとだけチート有り)
②恋のライバルの存在。
当然好きな男の子は、魅力的でなければいけません。
魅力的であるということは、他の女の子も彼のことが好きだということです。
村上春樹的な「100%の出会い」もいいですが、
少女漫画なのだから、恋愛対象は「モテる男の子」ですよね。
もちろん一捻りはしてあって、男の子はやや不良で一般の女性には敬遠されています。
それでもきちんと他にも彼を好きなライバルな女の子がいるわけですね。(なぜ丁寧語)
というわけで、そんなライバルとの張りあいが、恋心を強化していく。
③身分違いの恋(自分が立場が上)→親の反対
ヒロインは一般人とは違う存在として魔界人という設定。
魔界人と人とは結ばれませんよね―というロミジュリ的な壁が最初に立ちはだかる。
親の反対が、ますます恋愛の炎に油を注ぐのは少女漫画の鉄則じゃないだろうか。
④自分だけが相手の秘密を一方的に知っている関係
チートその1。
変身能力を使って相手の家庭に入り込み、相手の事情や内情を知っていく。
他にも、時間旅行を使って相手の過去を知ったりもする。
この時点でライバルには圧倒的に有利だし、相手に対しても情報量的に優位に立てる。
知っていれば、相手から話しを引き出して相手との距離を詰めるのもやりやすい。
これ、男だったら完全にアウトだし、今だったら女の子だとしても完全に悪質なストーカーですよね?
この設定メインで書かれた「灼熱の小早川さん」なんて作品もある。
ただ、相手役もなかなかやるもので、そう簡単には心を出さないし、
むしろいろいろ解決しなければならない問題があって、
それまでは絶対に結ばれないのだな、と感じさせる高いハードルが設定される。
⑤他の男性から求愛される
これもよくある。
しかも、求愛してきたのが王子様で、親もこの王子様との恋愛を後押しして
本人の恋愛感情を否定しにかかるので、ますます恋愛心が加速する。
「たまこまーけっと」に至っては、好きな男の子がいなくても、
こちらだけでドラマ作れるくらいだったので、強力なイベントなのだろう。
このイベントでは主に、主人公が自分の感情を再確認することに使われる。
⑥他の男性から求愛される2
⑤のイベントでは足りなかったためか、さらにゴリ押し。
今度は映画俳優から求愛を受ける。
⑤との違いは2つ。
1つめは、ちょっと主人公の心がふらつきかけること。
2つめは、このイベントがきっかけで相手とケンカ&仲直りが発生すること。
つまり心理的距離が縮まる。
と、このあたりまでは普通。
ここからが欲望実現のためのチートの連発
⑦相手がピンチに陥る →救う
相手がケンカに巻き込まれ、脳出血で死ぬという未来を知り、
チートを使って生命を救う。
このあたりさらっと書かれてるけど万能感あるよね。
⑧相手が王子様であることが判明する
⑨王子様が跡継ぎ争いで殺されそうになるので共に逃亡する
⑩王子が一度死んで生まれ変わる→母親役
これは物理的なものだけれど、
精神的な面で、傷ついた彼を「もう一度この世に産み直す」的な
擬似母親役をやる作品は他にいくつかあるので
この好きな男の母親役になりたい、って欲望もあったりするのかもしれない。
⑪なぜか王子は秒速で成長するので、短期間の間に「母→姉→親友→妹」をすべて体験する。
ここの部分が、最高に欲望にまみれてると思う。
ライバルの「幼馴染」の強みすら自分が奪い、
さらに光源氏感覚まで味わうという、まさにシンさまもびっくりの欲望。
⑫王子のために、親との関係を取り持つ
もうこの時点で大勝利確定ですわね。
「彼氏彼女の事情」だったらここで終わる。
「白馬の王子さま」を実現してみると…意外と面倒
⑬相手の王子としての能力が覚醒して、王子が主人公の心を読めるように
自分が相手のことをたくさん知った後は、
相手にも自分のことを知ってもらいたいという欲が出てくるのだろう。
これまた、その欲望がストレートに叶えられている。
ここで、主人公は最初「心が通じる、やった―!」って反応を示す。
相手にたいして全くやましいことないですよ―ってことなのだろうか。
もちろん、その後次第に恥ずかしがったり、
知られたくないネガティブな感情を持つようになったりと葛藤もする。
「自分の心を知ってほしい。でも知りすぎないで欲しい」
欲望って複雑だよね。
⑭相手に主導権をにぎられて不安になる
相手が優位だということは主導権も相手に移動するということである。
今までだったら自分が相手を守っており、
自分の意思で相手のそばにいることができたのだが、
今度は守られる立場になると、相手の行動が自分の手の届く範囲を越える。
実際それで、危機が迫った時に相手は自分を置いて去ろうとする。
「万能の王子様に守られたい。
でも万能すぎたり守られる一方だと、自分の存在意義がわからなくて不安」
これもまた複雑だ。
⑮他の男性から求愛される3
ま た か よ。
というわけで、不安になったら他の男性が寄ってくる。
そうやって自分の価値を確認した上で、やはり自分には相手しかいないと確信する。
しかもこの3の男性は、二人を守って死に、それをきっかけにして二人はついに結ばれる。
カルロは犠牲になったのだ…。
⑯実は2000年前からの運命の恋人でした
前世ネタキタ━(゚∀゚)━!
という感じですね。 ただ、これについてはどちらかというと
「これにとらわれるな」という扱いになっている。
ただ、主人公はかなりこれで心を強くしたし、
読者としてはこういう関係を望んでいたこととだろうと思われる。
⑰敵との闘いにおいて唯一無二性を持つ
主人公の特別性を強調するために、敵との闘いが描写される。
その中において、敵との闘いで必要となるキーアイテム「指輪」に
力を込めることができる唯一の存在として存在意義を確立。
いろいろ悩めるのは、こうした盤石の基盤あってこそとも言える。
無事結ばれたので、私達、普通の人間に戻ります
⑱王子様が能力を失い普通の人間になる。
相手は、自分が能力を失った時、
主人公が、自分を追って魔界人であることをやめないように
主人公と別れようとする。 でもそんなことしたら逆効果で
ますます主人公は自分の愛を確信するのであった。
⑲主人公も王子を追って人間になる。
もう本当にあっさり、当然のことのように人間になる主人公。
家族もそれを祝福する。
能力があるから好きになってもらえるわけでもなく、
魔界人だから諦めなければいけないわけでもなく、
「ただ自分が、相手のことをすきだから、一緒になりたい」
という理屈でOKらしい。
⑳なぜか王子の能力も主人公の能力も復活
とはいえ、これはご褒美のようなもので、
15巻以降では、結婚し子供も生まれて普通のカップルとして登場し、
特に魔界人としての能力を使って活躍するということはない。
恋愛をおもいっきり楽しんだとは、普通の夫婦になるのが
この当時の女の子の欲求だったのかな、と思う。
今だと、まただいぶ違ってくるんだろうけれど。
今はアイドル志願で、自分が輝きたいという方が強いのかもしれないし
おとなになっても社会で活躍したいみたいな欲求あるんじゃないかな)
そんなわけで、多分今とは「女の子」の欲求は大きく変わっているのだろうけれど、
その時々の女の子の欲求を具現化するのが少女漫画だとするならば、
この作品は、少女漫画の中でも徹底していて、抜きん出ているのではないだろかと想像する。
当時この作品より「もっと徹底して女の子の欲求を描いてる作品あったよ」というのがあれば是非教えて欲しいです。